なぜ埼玉県の高校は国公立大学を推すのか?【大学受験の光と影】
埼玉県の高校、特に公立高校には「国公立大学への進学を推奨する傾向」があると感じています。
私は長年、学習塾で高校入試指導に携わり、数多くの高校説明会にも参加してきました。その経験から、公立高校と私立高校では、大学受験に対する考え方に違いがあるように思います。
もちろん、すべての高校に当てはまるわけではありません。
今回は、なぜ公立高校が国公立大学を推奨するのか、その理由を5つの視点から考察します。
さらに、私自身の大学受験経験と塾講師として見てきた事例から、国公立大学を目指すことのメリットとリスクについても考えていきます。
1.国公立大学には大学としての実力がある
最初の理由は、大学そのものの評価です。
東洋経済オンラインの「2025年 本当に強い大学ランキング」を確認すると、上位11大学のうち8大学を国立大学が占めています。
このランキングだけで大学の優劣が決まるわけではありませんが、国立大学の強さを示す一つの材料といえるでしょう。
高校が国公立大学を進学先として高く評価することには、一定の合理性があると考えられます。
2.私立大学と比べて学費が安い
次に大きいのが学費です。
文部科学省の資料によると、大学の年間授業料は次のようになっています。
- 国立大学:535,800円(国が定める標準額)
- 私立大学:959,205円(2023年度平均)
※国立大学の金額は標準額であり、実際の授業料は大学によって異なります。
この数字を単純に4年間分に換算すると、
国立大学:約214万円
私立大学:約384万円
その差は約170万円です。
さらに、私立大学では理系学部などで授業料が高くなる場合もあります。
もちろん入学金や施設設備費、生活費なども考慮する必要がありますが、国公立大学を目指すことは家計面で大きなメリットになり得ます。
3.高校の大学合格実績を作りやすい?
ここからは私自身の推測も含む考察です。
高校のホームページでは、大学合格実績が次のように分類されていることがあります。
- 国公立大学
- 早慶上理
- GMARCH
- その他の私立大学
多くの場合、国公立大学の合格者数は目立つ位置に掲載されています。
高校にとって大学合格実績は、学校の教育力を示す重要な指標の一つです。
また、国公立大学を受験する生徒は、私立大学を併願することもあります。
その結果、1人の生徒が国公立大学と複数の私立大学に合格すれば、延べ合格者数を積み上げることができます。
ただし、これは高校が国公立大学を推奨する直接的な理由だと証明されたものではありません。
大学合格実績の見せ方が、高校の進路指導に何らかの影響を与えている可能性もあるのではないか。
そんな仮説です。
なお、合格実績を見る際には、国公立大学という合計数だけでなく、大学別の内訳や現役合格者数なども確認する必要があるでしょう。
4.「国公立大学の方が偉い」という価値観
これも私自身の体験に基づく考察です。
私は中央大学の出身です。
大学卒業後、最初に就職した会社を3か月で退職し、フリーターをしていた時期がありました。
その職場で、ある社員から出身大学を尋ねられました。
「中央大学です」
そう答えると、少し見下されたような反応をされました。
さらに、同じ職場にいた埼玉大学出身の先輩を引き合いに出され、国立大学の方が優れているという趣旨のことを言われたのです。
私は非常に驚きました。
当時の私は、中央大学という学歴をそこまで低く評価された経験がなかったからです。
もちろん、これはその社員個人の考え方であり、大学の客観的な優劣を示すものではありません。
ただ、世の中には「国立大学の方が私立大学より格上」という価値観があるのかもしれないと感じた出来事でした。
こうした公的なものへの信頼や評価の高さが、教育現場にも一定程度存在する可能性はあると思います。
5.最後まで受験科目を絞らない教育方針
私が特に重要だと思うのが、この5つ目の理由です。
高校説明会では、公立高校を中心に「最後まで教科を捨てない」という教育方針を耳にすることがあります。
国公立大学の一般選抜では、共通テストで多くの教科・科目が求められます。
現在の一般的な国立大学受験では、6教科8科目程度を学習するケースが多くなっています。
一方、私立大学の一般選抜では、文系なら英語・国語・地歴公民、理系なら英語・数学・理科など、3科目を中心とする方式も多くあります。
つまり、私立大学に志望を絞ることで、受験勉強の負担を特定科目に集中させることができるのです。
しかし、早い段階で数学や理科を捨ててしまうと、後から国公立大学を志望することが難しくなります。
高校側が最後まで幅広い教科を学ばせたいと考えることには、生徒の進路の可能性を守るという教育的な意義があります。
そもそも高校の勉強は、大学受験のためだけに存在しているわけではありません。
受験に使わないからといって、その教科を学ぶ価値がなくなるわけではないのです。
6.私自身は3科目に特化して中央大学に合格した
ここで、私自身の大学受験を振り返ります。
私は高校時代、英語・国語・日本史の3科目に絞って勉強していました。
当時のセンター試験の成績は、おおむね次のとおりです。
| 科目 | 得点率 |
|---|---|
| 英語(筆記) | 69% |
| 国語(現代文・古文) | 約70% |
| 日本史 | 81% |
| 合計 | 約73% |
※本人の記憶に基づく概算です。
センター試験利用入試では、法政大学経済学部に不合格。
一方、一般入試では中央大学を4回受験し、経済学部と商学部で4回とも合格しました。
なぜ一般入試では合格できたのか。
それは、受験科目を絞り、志望大学の過去問を徹底的に研究したからです。
私は数学が非常に苦手でした。
もし国立大学を目指して数学や理科なども学習していたら、中央大学の合格に必要な3科目の学力を十分に伸ばせなかった可能性があります。
大学受験の戦略として、私の「選択と集中」は成功したのです。
7.国公立大学受験には見落とされがちなリスクがある
ここで考えたいのが、国公立大学を目指すことのリスクです。
国公立大学を目指して幅広い科目を勉強する場合、限られた時間を多くの科目に分配しなければなりません。
そのため、私立大学の3科目に特化している受験生と比較すると、一部の科目で学習時間が不足する可能性があります。
例えば、国公立大学とGMARCHを併願する受験生を考えてみましょう。
国公立大学の受験に向けて数学や理科なども学習していたものの、最終的に国公立大学に不合格。
さらに、私立大学の一般選抜でもGMARCHに届かず、想定していたよりも志望順位の低い大学に進学する。
こうしたケースです。
もちろん、国公立大学と私立大学の併願に成功する受験生も大勢います。
しかし、国公立大学を目指すことによって学習負担が増え、私立大学受験の準備に影響が生じることもあるでしょう。
もしかしたら、最初から3科目に特化していればGMARCHに合格できたかもしれない。
そんな可能性も考えられます。
特に中堅層の受験生にとって、いつまで国公立大学を目指し、どの段階で受験科目を絞るのかという判断は非常に重要です。
8.しかし、私の大学受験にも大きな問題があった
ここまで読むと、私立大学の受験科目に絞った方が有利だと思うかもしれません。
しかし、私自身は大学合格後に大きな問題を抱えました。
それは、燃え尽きてしまったことです。
私は中央大学に合格した瞬間、大きな達成感に包まれました。
早稲田大学商学部の受験を終えた後、中央大学の合格を家族から電話で知らされたときのことを、今でも鮮明に覚えています。
高田馬場の街並みが、いつもとまったく違って見えたのです。
長期間の受験勉強が報われたことによる、強烈な幸福感でした。
ところが、その成功体験があまりにも大きすぎました。
大学入学後、私は受験勉強ほどの情熱を大学での学びに注ぐことができませんでした。
大学に合格すること自体が、人生の大きな目標になっていたのです。
受験科目を絞り、点数を上げ、合格する。
その戦略には成功しました。
しかし、大学入学後の自分自身を成長させるという視点が欠けていたのかもしれません。
9.「選択と集中」と「タイパ」は表裏一体
私は大学受験を通じて、選択と集中の強さを実感しました。
限られた時間と能力を特定の目標に集中させることで、大きな成果を得ることができます。
しかし、効率ばかりを追求すると、目標達成に必要のないものを切り捨ててしまう危険性もあります。
これは大学受験だけの話ではありません。
仕事でも、勉強でも、人生でも同じです。
短期的な成果を最大化することが、長期的な成長につながるとは限りません。
一方で、何も選ばず、何も捨てず、すべてに取り組もうとすれば、十分な成果を得られない可能性もあります。
選択と集中によって成功することと、タイムパフォーマンスを追求しすぎることは、表裏一体なのです。
どちらが正しいという単純な話ではありません。
10.国公立大学に挑戦して不合格になった人へ
最後に、今回の記事で最も伝えたかったことを書きます。
国公立大学を目指して、一生懸命に勉強した。
最後まで多くの教科を捨てずに頑張った。
しかし、第一志望の国公立大学には届かなかった。
さらに、GMARCHなどの私立大学にも合格できず、当初の希望とは違う大学に進学することになった。
そんな人に、私は伝えたいことがあります。
あなたは、大学で大きく伸びる可能性がある。
私は受験科目を絞り、戦略を徹底することで志望大学に合格しました。
しかし、その成功体験に満足し、大学入学後に燃え尽きてしまいました。
一方で、国公立大学を目指して幅広い教科を学び、最後まで挑戦した人には、受験結果だけでは測れない経験が残っています。
努力が報われなかった悔しさもあるでしょう。
自分の力を発揮できなかったという思いもあるかもしれません。
しかし、その悔しさを大学での学びに向けることができれば、大きな成長につながる可能性があります。
私が高校時代に見てきた友人の中にも、大学受験で思いどおりの結果を得られなかったことを、その後の努力の原動力にしていた人がいました。
大学受験は、人生のゴールではありません。
大学に入ってから何を学び、どのように成長するか。
その方が、長い人生において重要な意味を持つはずです。
国公立大学への挑戦に失敗したからといって、それまでの努力が無駄になるわけではありません。
むしろ、結果が出なかった経験をどう受け止めるかによって、その後の人生は変わっていくと思います。
おわりに
今回、埼玉県の公立高校が国公立大学を推奨する理由について、5つの視点から考察しました。
国公立大学には学費や大学としての評価など、多くの魅力があります。
また、最後まで教科を絞らずに学習することには、受験結果とは別の教育的な価値があるでしょう。
一方で、受験科目が多くなることによる負担や、併願する私立大学への影響も考える必要があります。
大切なのは、国公立大学と私立大学のどちらが優れているかではありません。
それぞれの生徒が、自分に合った進路を選び、その先で成長できることです。
そして、大学受験で思いどおりの結果を得られなかった人にこそ、その後の大学生活を大切にしてほしい。
それが、私が今回最も伝えたかったメッセージです。
ノグジュン|埼玉県高校入試
埼玉県の高校入試・高校情報を中心に、進学実績や学費、入試制度などをデータで分析し、独自の視点で解説しています。
※この記事はYouTube動画の内容をもとに、読みやすいよう再構成したものです。高校の進路指導に関する考察には、筆者の経験に基づく主観や仮説が含まれます。

